本当にあった労働法⑤|定年後も活躍する労働者

私が一社目に入社した会社の話です。
営業部長が定年を迎えると聞きました。
その部長が定年退職となった翌日、営業部長は変わりましたが、元部長は同じ島の別の席で今まで通り出勤していました。
「どういうこと?」と当時の私は疑問に思いました。

ここで私の身の上話を少々。
私が1社目の会社で営業から総務へ異動したのは2012年のことです。
私自身元々営業部にいることをあまり前向きに受け止めていなかったんです。如何せん、前述の通り勤怠管理がですね…。
むしろ総務への異動は私が望んでいたことに近かった。総務への異動に際し役員からは「これは君にとって初めての挫折だ。また営業に戻ってこられるように総務で努力してほしい」と言われた際には「嫌です」と即答しました。総務に残りたかったもので。
そして結果として、この総務での1年間は私の社会人経験の中でも非常に大きな意味を持つことになります。後に社労士を目指すきっかけになっただけでなく、高齢者雇用や障害者雇用に関する重要な法改正が行われた2013年を、総務担当として経験することができたのですから。このタイミングで総務の経験をさせてくれた会社には感謝しています。

定年とその後のキャリア
突然ですが、「定年」とは何歳でしょう?
会社によりますし、定めのない会社もあるはずですが、多くの会社では「60歳」と規定されていると思います。1994年以降、定年を定める場合は下限を「60歳」とすることが義務化されました。

一方、60歳を過ぎても労働者として働き続ける人は年々増加しています。同じ会社で「再雇用」という形で働く場合もあれば別の会社に改めて雇用され働くケースもあります。60歳以降1年ごとの契約を更新する形で働き続ける場合「嘱託社員」という呼ばれ方をすることが多くなってきています。

確かに1社目の会社には当該元部長以外にも総務で備品の管理や社有車の清掃を担当する嘱託社員、新入社員の研修スケジュールを管理する嘱託社員、或いは工場で引き続き作業員として働く人、顧問や業務委託など雇用契約以外の形で会社に残る人、様々な形で60歳以上の方が活躍していました。

また、私が最後に勤めたM&Aの仲介会社では銀行を退職した方が売り手及び買い手企業の財務状況や会社概要のチェックを担当する部署で嘱託社員として数多く活躍していました。社労士資格を取得する前の私は入社後その部署に配属され、知識経験豊富な嘱託社員の方々から沢山のことを学びながら働いていました。

2013年、高齢者雇用確保措置は大きな転換を迎える
私が総務にいたころ、特に2013年の4月以降、何かと「雇用延長」という言葉を耳にすることが増えました。当時の私は「前述の部長然り、うちの会社には既に定年過ぎて働いている人いるよね?今から何を整えるの?」と考えていました。今なら分かります。社労士試験のテキストにも載っています。

定年後の継続雇用という概念は以前よりありましたが、その対象者を会社主導で労使協定に定めることが出来ました。人事考課、出勤率、健康状態、懲戒歴、そして「会社が必要と認めた者」など会社が継続して雇いたいと思う人に限定することが出来たのです。

そこを段階的に変えていこうとしたのが2013年の高齢者雇用安定法の改正です。段階的に年齢を引き上げる形ではありますが、会社に選ばれた人ではなく希望者全員を対象とする継続雇用制度を設けることが義務付けられるようになりました。会社としては規定の改定に加え、定年を迎える労働者全員の以降の確認、業務内容や給与体系の検討、再雇用に関する事務手続き(社会保険の同日得喪や高年齢雇用継続給付)など、やることが増えた法改正だと思います。

そしてこの段階的な年齢の引き上げは2025年の3月を以て終了しました。今は65歳までの労働者の全てが、希望すれば継続してその会社で雇用されることが出来ます。

65歳を過ぎても会社で働く
65歳という年齢が高齢者の雇用を語るうえで重視される理由は、言わずもがな年金の受給開始年齢が65歳であることに起因すると考えられます。一方、65歳を過ぎても働くことが出来る世の中を作ろうという動きが近年起きています。2021年の高年齢者雇用安定法の改正で、70歳までの「就業確保措置」に関する努力義務が規定されました。雇用契約に限らず業務委託や社会貢献活動など様々な形でもよいから、本人が希望する場合は70歳まで活躍できる環境を整えようという考え方です。そのうちこちらも義務規定になるかもしれませんね。

そんな中、私がとある会社の賃金台帳を見ていた時のことです。「社長、この方は雇用保険だけ加入で社会保険に入っていないようなのですがどういうことですか?」と聞くと返ってきたのは「その人70代後半なんだよね。年金は入ってないし、保険は後期高齢者なんだ」。なんと、当該会社には70代後半になっても正社員として働いているようでした。高齢者雇用確保措置をよりよい形で実施している会社として、私自身とても印象に残っています。

年齢ではなく、実力や意欲で活躍できる社会へ
会社として、若い人を育てて活躍させたいという気持ちが分からないわけではありません。若い人なら体力もあるし、素直に沢山のことを吸収できる、その先長く働いてくれるなら十分投資の対象として価値があるでしょう。しかし、高齢者にだって働きたい意欲がある、年齢に見合った経験値や知識がある、そしてそれまで活躍してきた実績がある。年齢という形骸化したものではなくその人の本質を見極めたうえで、誰もが適材適所で活躍できる社会が出来たらいいなと考えます。

最後にこちら、労働安全衛生法第62条の一文を確認しましょう。
「事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の〇〇に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない。」

〇〇に入る言葉、分かりますか。

そう、『心身の条件』です。こちら2021年社労士試験の安衛法の選択式で出題されました。私が受かった年の問題です。だからこそ、思い入れの深い論点です。

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