本当にあった労働法|⑨様々なハラスメントの形

 〇〇ハラスメントとつく言葉、日本において「セクシャル・ハラスメント」が1989年に新語・流行語大賞の新語部門金賞に選ばれて以来徐々に浸透し、今や沢山のハラスメントが存在します。セクハラ、パワハラ、マタハラ、スメハラ、モラハラ、カスハラ…何でもかんでもハラスメントとすることを揶揄する声もありますが、嫌なことすら嫌と言えない世の中より余程マシ、ハラスメントの概念の拡大は人が、とりわけ弱者が生きやすくなった証拠とも言えるかと思います。

今回は、職場におけるハラスメントについて考えていきたいと思います。

①「ちゃん付け」はセクハラ 
 (東京地裁令和7年10月23日判決)
 同じ職場の男性が女性に対し日常的に「〇〇ちゃん」と呼ぶほか、「かわいい」「体型いいよね」といった容姿に関する発言や下着に関する性的な発言をしていました。女性は精神的苦痛を受けたとして男性に損害賠償を請求、22万円の賠償が命じられました。もっとも、「ちゃん付け」だけで直ちに違法ではなく、立場や関係性その他の言動も含めた判断です。

 突然ですが、職場において従業員同士はどのように呼び合うのが適切でしょう。最近では社長やすべての役職者も含めて一括して「さん」付けで呼ぶ会社が増えていると聞きます。私もそのような会社に勤めたこともあり最初は驚きましたが慣れるととても居心地が良かったです。勿論新入社員や内定者でも「さん」ですし、性別による区別もありません。或いは資格者がいるような職場では資格者は「先生」、それ以外は「さん」でしょうか。比較的古い体質の会社だと役職、さん、君/ちゃん、呼び捨て、或いは変なあだ名など事細かな使い分けがされていてとても面倒くさかったです。そして私は呼び捨てやちゃん付け、変なあだ名の対象にされがちだったので嫌でしたしこのような判例が出て嬉しかったです。いいぞ令和、もっと良い世の中になってくれ。

②相手が求職者でも、セクハラは禁止です
(C高等学校事件 鳥取地裁倉吉支部平成27年3月26日判決)
 「りんごは果物です」くらい当たり前だと思うかもしれませんが、こちら2026年10月1日施行の男女雇用機会均等法改正とも関係があります。もちろん求職者へのセクハラがこれまで許されていたわけではありませんが、今回の改正では企業に対して求職者等へのセクハラを防止するための措置を講じることが新たに義務付けられました。

ある女性が教員として就職するため学校法人の理事長兼校長と採用面談を行いました。ところが理事長は女性との飲食を伴う面談の際に性的な体験談や子作りに関する話を繰り返しました。更に女性に恋愛感情を抱いたとの発言をしたうえ、校長室で女性の両腕をつかみキスをしようとしました。女性は精神的苦痛を受けたとして理事長個人と学校法人に損害賠償を請求、慰謝料と弁護士費用合計88万円の損害賠償が認められました。でしょうね。

③業務命令でも内容次第ではパワハラです
(神奈川中央交通(大和営業所)事件 横浜地裁平成11年9月21日判決)
 路線バスの運転士が交通事故をきっかけに運転業務を外され、営業所での草むしりを命じられた事件です。運転士は炎天下で約1か月にわたり草むしりを命じられ、実際に14出勤日従事しました。これに対し運転士は、業務命令が違法であるとして損害賠償を求めました。その結果、草むしりは営業所長の裁量を逸脱した違法な業務命令と判断され会社と営業所長に60万円の慰謝料の支払いが命じられました。

ポイントとしては、草むしりを命じること自体が違法なのではなく業務命令の目的や方法が問題になったという点です。しかも営業所長は、運転士が病気になっても仕方がないという認識で炎天下の除草作業を命じていたというのです。いくら業務命令といえどこれでは裁量の範囲を逸脱していると判断されても仕方ありません。現在のパワハラ防止指針でいう「過小な要求」とも関連するこの事件、1999年の判例であるという点にもご注目ください。またしても立法より司法が進んでいたのかなと、そういう判例です。

④妊娠したら降格!? 配置転換に伴う不利益取扱い
(広島中央保健生活協同組合事件 最高裁第一小法廷 平成26年10月23日判決) 
 病院勤務の女性が妊娠を理由に負担が軽い業務への転換を希望しました。会社側は女性を異動させましたが、その際に副主任の役職も外しました。女性は出産・育児休業を経て元の部署に復帰したものの、副主任には戻されませんでした。そこで女性は降格が違法であるとして提訴しました。最高裁は、妊娠中の軽易業務への転換を契機とする降格は、原則として男女雇用機会均等法9条3項が禁止する不利益取扱いに当たると判断しました。そのうえで原判決を破棄・差戻し、差戻審では降格の違法性が認められました。そう、実はこの女性、一審・二審では敗訴しています。それでも諦めず最高裁まで争い、最終的に降格の違法性が認められました。判例のポイントは、妊娠した社員の仕事を軽くすることと降格は別問題だという点です。本人の希望に応じた配置転換であっても降格まで当然に認められるわけではありません。

 ここで「本当にあったマタハラ話」をするなら、とある若い営業職の女性が妊娠したんです。妊娠中は体調も安定せず出産後は産休育休に入ることも決まっていたため一生懸命引継ぎをします。後任者が大変なのは分かりますが、だからと言って「これだから女が営業やるべきじゃないんだよ!」等と聞こえよがしに言う行為、まさにマタハラです。復職後の女性を不本意な部署へ異動させたことも勿論、どさくさに紛れて当該女性の後輩にあたる女性営業担当者まで左遷したこと(それも減給を伴う!)なんかはもう、パワハラや人事権の濫用が問題となり得るでしょう。

 事業主の皆さん、人のふり見て我がふり直せ。「良かれと思って」いたとしても、相手の尊厳を傷つけたり、業務上必要な範囲を超えたりすればハラスメントになり得ます。

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